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東京地方裁判所 平成9年(ワ)15534号 判決

原告

株式会社ニトム

右代表者代表取締役

右訴訟代理人弁護士

松本隆文

被告

巣鴨信用金庫

右代表者代表理事

右訴訟代理人弁護士

丹羽健介

佐藤米三

高畑満

八賀和子

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一請求

被告が、別紙担保権目録≪省略≫一及び二記載の各根抵当権の物上代位に基づいて、平成九年七月九日別紙差押債権目録≪省略≫記載の賃料債権に対してした担保権の行使は、これを許さない。

第二事案の概要

本件は、根抵当権者である被告が、物上代位により債務者の第三債務者(賃借人)に対して有する賃料債権を差押えたところ、原告が、右差押より前に右賃料債権を譲受け対抗関係を具備したとして、右担保権行使の排除を求める事案である。

一  原告の主張

訴外吉川企業株式会社は、平成九年五月一五日、原告に対し、訴外吉川企業株式会社が訴外株式会社サカガミに対して有する、将来発生する平成九年六月分から二億五〇〇〇万円に満つるまでの賃料債権を譲渡し、平成九年五月三〇日付内容証明郵便により、訴外株式会社サカガミに対し、債権譲渡の通知をし、同年五月三一日に右郵便は訴外株式会社サカガミに対し到達した。

被告は、別紙担保権目録一及び二記載の各根抵当権の物上代位に基づいて、平成九年七月九日、別紙差押債権目録記載の賃料債権を差し押さえた。

訴外吉川企業株式会社の、訴外株式会社サカガミに対する債権譲渡通知は、被告の物上代位に基づく差押えに先行する。

二  被告の反論

訴外吉川企業株式会社の、訴外株式会社サカガミに対する債権譲渡通知が、被告の物上代位に基づく差押えに先行しても、被告は根抵当権の物上代位権を行使できる。

第三当裁判所の判断

一  民法三七二条において準用する三〇四条一項ただし書が抵当権者が物上代位権を行使するには払渡し又は引渡しの前に差押えをすることを要するとした趣旨目的は、主として、抵当権の効力が物上代位の目的となる債権にも及ぶことから、右債権の債務者(以下「第三債務者」という。)は、右債権の債権者である抵当不動産の所有者(以下「抵当権設定者」という。)に弁済をしても弁済による目的債権の消滅の効果を抵当権者に対抗できないという不安定な地位に置かれる可能性があるため、差押えを物上代位権行使の要件とし、第三債務者は、差押命令の送達を受ける前には抵当権設定者に弁済をすれば足り、右弁済による目的債権消滅の効果を抵当権者にも対抗することができることにして、二重弁済を強いられる危険から第三債務者を保護するという点にあると解される。

右のような民法三〇四条一項の趣旨目的に照らすと、同項の「払渡又ハ引渡」には債権譲渡は含まれず、抵当権者は、物上代位の目的債権が譲渡され第三者に対する対抗関係が備えられた後においても、自ら目的債権を差し押さえて物上代位権を行使することができるものと解するのが相当である。

けだし、

1  民法三〇四条一項の「払渡又ハ引渡」という言葉は当然には債権譲渡を含むものとは解されないし、物上代位の目的債権が譲渡されたことから必然的に抵当権の効力が右目的債権に及ばなくなるものと解すべき理由もないところ、

2  物上代位の目的債権が譲渡された後に抵当権者が物上代位権に基づき目的債権の差押えをした場合において、第三債務者は、差押命令の送達を受ける前に債権譲受人に弁済した債権についてはその消滅を抵当権者に対抗することができ、弁済をしていない債権についてはこれを供託すれば免責されるのであるから、抵当権者に目的債権の譲渡後における物上代位権の行使を認めても第三債務者の利益が害されることとはならず、

3  抵当権の効力が物上代位の目的債権についても及ぶことは抵当権設定登記により公示されているとみることができ、

4  対抗要件を備えた債権譲渡が物上代位に優先するものと解するならば、抵当権設定者は、抵当権者からの差押えの前に債権譲渡をすることによって容易に物上代位権の行使を免れることができるが、このことは抵当権者の利益を不当に害するものというべきだからである。

そして、以上の理は、物上代位による差押えの時点において債権譲渡に係る目的債権の弁済期が到来しているかどうかにかかわりなく、当てはまるものというべきである。(最高裁平成九年(オ)第四一九号同一〇年一月三〇日第二小法廷判決、最高裁平成八年(オ)第六七三号同一〇年二月一〇日第三小法廷判決参照)

二  一項のとおりであるから、原告の主張どおりであるとしても、被告は根抵当権の物上代位権を行使でき、本件請求に理由がないことは明らかであるから、本件請求を棄却することとする。

(裁判官 宮武康)

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